THE MODELとは|分業型営業の作り方と落とし穴
「THE MODELを導入したい」——営業会議でこの言葉が出た瞬間、現場の表情が少し曇る。マーケ、インサイドセールス、フィールドセールス、カスタマーサクセス。役割をきれいに4つに分ける図は美しいが、頭をよぎるのは「うち、そんなに人いないけど?」という素朴な疑問だ。
THE MODELはSaaS企業を中心に広がった分業型の営業プロセスで、もとはSalesforceの組織モデルを書籍化したものが起点になっている。理屈は強力だ。ただ、5人や10人の営業組織にそのまま持ち込むと、たいてい歯車が空回りする。今回は、THE MODELの全体像をいったん整理したうえで、中小チームがどこまで取り入れて、どこを捨てるべきかを現場目線で見ていこう。
THE MODELとは何か:4分業の全体像
THE MODELの核は、営業プロセスを「一人で最初から最後までやる」のをやめ、工程ごとに専門チームへ分けることにある。流れはこうだ。
| フェーズ | 担当 | ざっくりやること | 主なKPI |
|---|---|---|---|
| 認知・獲得 | マーケティング | リード獲得、ナーチャリング | リード数、MQL数 |
| 商談化 | インサイドセールス(IS) | 電話・メールで見込みを見極め、商談を作る | 商談化数、SQL数 |
| 受注 | フィールドセールス(FS) | 提案・クロージング | 受注数、受注額 |
| 継続・拡大 | カスタマーサクセス(CS) | 定着支援、解約防止、追加提案 | 解約率、アップセル額 |
ポイントは、各フェーズが次のフェーズへ「バトン」を渡す構造になっていること。マーケが集めたリードをISが温め、見込みが立ったものをFSへ、契約後はCSが引き継ぐ。バトンには通過基準(MQL、SQLといった定義)があり、基準を満たさないものは前の工程へ差し戻す。
この分業がうまく回ると、一人あたりの守備範囲が狭くなる分、業務が標準化されて生産性が上がる。新人でも「ISのこの工程だけ」と区切れば育成も早い。ここがTHE MODELが支持される最大の理由だ。
なぜ「分ける」と強いのか
従来型の営業は、リスト集めからアポ取り、提案、契約後のフォローまで一人が抱える。一見シンプルだが、得意・不得意がそのまま成果に出る。新規開拓は得意だが提案が弱い人、提案は神だがそもそも商談を作れない人——営業あるあるだ。
工程を分ければ、それぞれが自分の得意領域に集中できる。電話で見込みを掘り起こすのが得意な人はISに、場の空気を読んで決めにいくのが得意な人はFSに。さらに、どの工程でリードが詰まっているかが数字で見えるようになる。「商談はそこそこ作れているのに受注が伸びない」ならFSの提案力、「そもそも商談が足りない」ならISかマーケ、と原因の切り分けがしやすい。
テレアポをやってきたチームにとって、ISは特に親和性が高い。電話で見込みを見極める技術はそのまま生きる。テレアポとインサイドセールスの違いはこちらの記事で整理しているが、ざっくり言えばISは「アポを取る」から「育てて商談化する」へ一段広がった役割だと考えていい。
中小企業でTHE MODELをそのままやると詰む理由
理屈は分かった。問題は人数だ。4分業を文字どおりやるには、各フェーズに最低1人、できれば複数人いる前提になる。5人の営業組織で4つに割れば、各チーム1人ちょっと。これでは「分業」ではなく「孤立」だ。
具体的にどう詰まるか、よくあるパターンを挙げる。
- 手待ちが発生する:FS担当が3人いてISが1人だと、商談を作るスピードが追いつかず、FSが手すきになる。逆もまた然り。
- 属人化が消えない:各工程1人なら、その人が休んだ瞬間にバトンが止まる。標準化どころか、むしろ単一障害点が増える。
- 責任の押し付け合いが起きる:受注が落ちたとき「ISが渡すリードの質が悪い」「FSのクロージングが下手」と、工程の境目で揉める。これはTHE MODELの構造的な弱点で、規模が小さいほど直接ぶつかる。
つまり、分業の恩恵(標準化・集中)を得る前に、分業のコスト(引き継ぎロス・調整負荷)だけが先に来てしまう。これが中小がTHE MODELで失敗する典型だ。
現実解:分業は「役割」で、人は兼務でいい
ではどうするか。答えはシンプルで、プロセスは4分業のまま設計し、人は兼務でつなぐ。THE MODELを「組織図」ではなく「業務の流れ」として導入する、という発想の切り替えだ。
たとえば3〜5人規模なら、こんな組み方が現実的だ。
- マーケ+ISを1人(または兼務)に寄せる。リード獲得と商談化は連続した作業なので、同じ人が見たほうがリードの温度を肌で分かる。
- FSは受注に専念。ここはクロージングに集中させ、雑務を渡さない。組織の売上を直接作る工程だからだ。
- CSは立ち上げ初期は省略、または既存FSが兼務。顧客数が少ないうちはCS専任を置く余裕はない。解約の兆しが見えてきたタイミングで切り出す。
重要なのは、人を兼務にしてもバトンの基準(MQL/SQLの定義)と記録だけは分業時と同じに保つこと。「どの状態のリードを次の工程に進めるか」が曖昧だと、兼務している本人の頭の中だけで判断が完結し、引き継ぎも改善もできなくなる。リードの受け渡し基準をどう設計するかはMQL・SQLの引き継ぎ設計で詳しく触れている。
そして、いざ専任を増やすときはISから立てるのが定石だ。商談を生む工程がボトルネックになりやすく、ここを増やすと受注まで一気に流れやすい。IS立ち上げの具体的な手順はSDR立ち上げの記事も参考になる。
落とし穴を避けるためのチェックポイント
最後に、規模を問わずTHE MODELで転びやすいポイントを4つ。
- KPIを工程ごとに分断しすぎない。ISの商談化数だけを追うと「数は作るが質が低い商談」が量産される。受注まで含めた指標を一部共有しておく。
- 差し戻しのルールを最初に決める。基準を満たさないリードをどう前工程へ戻すか。ここを決めずに走ると、境目で必ず揉める。
- データを一箇所にためる。マーケのリード、ISの架電履歴、FSの商談ステータスがバラバラのツールに散ると、分業の最大の利点である「数字で詰まりが見える」が死ぬ。
- 小さく始めて、詰まったところだけ専任化する。最初から完璧な4分業を目指さない。ボトルネックが見えてから人を割く。
まとめ
THE MODELはマーケ・IS・FS・CSの4分業で営業プロセスを標準化する強力なモデルだ。ただし「組織図をそのまま真似る」ものではない。中小企業がやるべきは、プロセスとしての4分業は設計し、人は兼務でつなぎ、バトンの基準と記録だけは厳格に保つこと。そのうえで、詰まった工程から順に専任化していけば、無理なく分業の恩恵を取り込める。
分業を成立させる土台は、結局のところ「リードと商談の状態が一箇所で見えていること」に尽きる。兼務だろうが専任だろうが、ここが整っていない分業はただの押し付け合いになる。
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